南会津 会津朝日岳 第一北稜/北西尾根(八本歯)

2026/3/22(日)~24(火)

南会津という山域は要所要所にボス級の山が配置されている。大雑把に、北から浅草岳、会津朝日岳、丸山岳、会津駒ヶ岳、燧ヶ岳といったところだろうか。南会津という山域をひとつのRPGゲームのマップと捉えれば、なかなかバランスの良い配置をしているように思えてくる。

さて、会津朝日岳は、過去に2度敗退している。1度目は前十字靭帯断裂から復帰したシーズンにスキーで来て、バテバテで時間切れ。2度目は真夏にハイキングで来て、叶の高手で熱中症になった。これらは僕にとってなかなかに情けなく恥ずかしい思い出なのだが、この度ようやく会津朝日岳の頂を踏むことができた。

会津朝日岳北壁に走る北稜は会津朝日岳の冬期初登ラインだが、その後の記録は未見である。それはさておき、このラインから初の会津朝日の頂を踏むというのは、なんとも数奇であり、粋であると思う。また、北西尾根は南会津フリークであった故・榎並祐史氏の記録を拝見し、友人GGG(ゴリラゴリラゴリラ)とかねてより検討していたルートであった。登山大系2番のエリアで創造的な登山を続けている中澤氏も参加することになり、南会津を愛する3人でさあ、会津朝日岳の雪稜へ向かうとしよう。

【3/22】
長閑な白沢集落の除雪スペースに邪魔にならないように車を停め、のんびりと入山する。いわなの里までの林道はスノーモービルのトレースがあり、快調に歩くことができる。まるでゴールデンウイークのような陽気で、汗が滴る。

いわなの里から山に入り、赤倉沢を左岸側へ渡渉して、ほぼ夏道沿いに登っていく。赤倉沢は全層雪崩のデブリだらけで、側壁が黒々としている。GGGは「いわなの里からは日陰になって涼しいよ」とか言ってたが、普通に陽が当たって暑い。中澤さんはいつの間にかタンクトップになっていた。

赤倉沢から叶の高手に至る急なブナの尾根に乗り上げる。雪が緩んでツボ足ではだいぶ沈むようになり、尾根の途中でワカンに換装し、ザラメラッセルの急登をいなして叶の高手の稜線に出る。稜線に出てからGGGとトップを代わると、重荷のはずなのに空身のような速さになる。速すぎる。熊ノ平の避難小屋で行動終了。

小屋の中にテントを張る。日が傾くと、雪面にブナの影が浮かび上がってとても良い雰囲気だ。中澤さんの沢登りの話を聞いたりしながら、ウイスキーをチビチビやり、鍋を食べて快適に寝た。

赤倉沢
重荷を背負ってブナの尾根へ
叶の高手へ
大クロベ
会津朝日岳が近い
避難小屋
雪に浮かぶブナの影が良い

【3/23】
4時起床。5時半出発。避難小屋の横の沢を下って楢戸沢を横断し、第一北稜に取り付く。GGGと僕がつるべでリードして、中澤さんにはアッセンダーで登ってもらう。「こういう山をやるのは6年ぶり」との事だが、普通に登っていて流石である。

(1P目) 55m GGGリード
出だしの雪壁をいなし、リッジを進む。
(2P目) 60m 僕リード
岩壁を巻いて雪壁を登る。爽快なピッチ。程よく支点となる灌木が繋がっている。60mいっぱい伸ばしてビレイ。
(3P目) 40m GGGリード
藪交じりの雪稜。容易。フォローなのであまり記憶がない。
(4P目) 35m 僕リード
藪交じりの雪稜。念のためロープを伸ばしたが、必要なかった。

ここからはフリーで行けそうとみて、ロープを畳んで登る。右手に見えている穏やかなブナの台地は、なんともキャンプに良さそうな桃源郷の雰囲気を醸している。クロベとキタゴヨウの森を抜け、春めく会越国境の山々を背にグイグイと雪稜を登る。実に快調だ。やがて北稜は八本歯の稜線と合流する。ワンポイント急な雪壁があり、荒淀沢側に転落すると一発アウトなので、念のため1ピッチロープを出した。

白い会津朝日岳の山頂に立つ。やっぱり少し感慨深い。ようやくこの頂に辿り着いた。南に丸山岳が大きく見える。4月に歩く予定である鋸刃の尾根の観察をする。

穏やかな尾根を下り、避難小屋に戻るとまだ10時半だった。稜線の雪の付き方を見て、北西尾根も雪稜として登れると意見が一致し、翌日は八本歯を登ることにする。朝と同じルートを辿って、デロデロの雪の斜面をなんとか登ると、第一北稜を登攀中に見つけた美しいブナの台地にたどり着く。

そこはブナの大木が連なる楽園だった。ひときわ大きなブナに触れる。ここに来た人はいるのだろうか、と問いかける。一瞬のうちに心が綺麗になる。この気持ちになるために南会津に来ているのだ。

長須が玉の稜線の直下でテントを張る。ブナとダケカンバが林立する台地で、なんとも心穏やかな幕場だ。のんびりお茶をして、散歩に出る。会津朝日岳の南壁は厳めしい。北壁よりもよっぽど凄まじい壁だ。テントに戻ると、中澤さんがイグルーを作っていた。日射でテント内が暑く、このイグルーは夕飯の調理に役立った。夜は雪になり、風が少し強かった。

黎明の楢戸沢
北稜に取り付く
ブナ台地と羊雲
爽快な雪稜
3ピッチ目
ブナ台地と浅草岳
山頂へ
丸山岳
毛猛
ブナ台地
漂う
楽園のヌシ
ダケカンバ
穏やか
お散歩に出る
会津朝日岳南壁
素晴らしい宿

【3/24】
5時起床。外に出ると晴れていた。7時出発。程なくして八本歯のギザギザの基部に至る。1つ目の歯はフリーで抜け、2本目の歯からスタカットで行く。

(1P目) 45m GGGリード
2本目の歯。藪交じりの雪稜。雪壁を登って簡単なリッジ。ビレイポイントから一旦歩いてギャップを下りる。
(2P目) 40m GGGリード
3本目の歯。中澤さんが雪壁をフリーで上がっていくが、思いのほか急だったようで下りてきた。GGGがグイグイ雪壁を登っていく。ギャップの手前まで伸ばす。登った先に悪そうな岩壁が見えている。

ギャップをキックステップで下り、一旦ロープを畳む。歯を1本、右の藪斜面からフリーで巻く。岩壁に近付くと、左の斜面に雪壁が繋がっていて、案外簡単に処理できそうだ。なかなか気持ちよさそうなピッチなので、リードを頂く。

(3P目) 40m 僕リード
5本目の歯。雪壁を登る。見た目は気持ちよさそうだったが、モナカラッセルで見た目ほど快適ではない。ブッシュが出ていて支点は豊富。歯のてっぺんの灌木でピッチを切った。
(4P目) 100m コンテ
6本目の歯を越える。ちなみに、歯の数はテキトウなのであまり真剣に聞かないでほしい。この先も容易な雪稜が続くように見えたので、おそらく7本目を越えたギャップでロープを解除する。

この先はフリーで進む。8本目は昨日第一北稜を登った際に念のためロープを出した雪壁だ。昨日のトレースが階段になっていて、フリーで簡単に抜けることができた。1日ぶりの会津朝日岳の山頂に立つ。景色は春霞でくすんでいる。丸山岳が昨日よりも少し遠くに見える気がした。

避難小屋まで下りて装備を解除し、再び夏道沿いを下る。暑いので雪も緩み、ズボズボの下りザラメラッセルになる。踏み抜きが多発して埒が明かないので、怒涛のシリセードで下る。急な尾根を下りきったところでワカンを付ける。

赤倉沢に下りてからは、体力抜群の2人が速すぎて普通に千切られた。振り返ると斜面がモコモコしていて雪崩が怖いし、僕なりに頑張って歩いてるのだが、積んでいるエンジンの違いを見せつけられた感じだ。一昨日よりも山肌が黒々としていて、全層雪崩のデブリも増えている。季節というものは、いつだって人間の時間に構わず進んでいくものだ。

いわなの里からの林道でも再び千切られる。もう追いつけないから仕方がないので、白沢集落まで林道を黙々と歩ききり、一人遅れて駐車地点に戻ってきた。GGGは、「もう少し遅いと思ってたよ」とニヤニヤしていた。まあ、多少体力が付いたということか。雪に突き刺しておいたコーラで3人で祝杯を上げた。
中澤さんと握手を交わし、中澤号は娘さんに会うべく颯爽と越後へと去っていった。僕とGGGは温泉に入ってから帰った。温泉に入って、山の疲れをじわじわと感じる時間が好きだ。

朝が来た
目指すは1日ぶりの山頂
2ピッチ目の雪壁
言い得て妙
振り返る
左の雪壁から登る
メインディッシュをリード
気持ちがいい
山頂を振り返る
下山
会津朝日岳の山容
稜線闊歩
すっかり春
モコモコの雪崩危険地帯
いわなの里へ下りた

南会津という山域は、愛があればあるほど輝くと思っている。いかにして、暖かなブナの森を、黒々と茂る五葉松の尾根を、爽やかなサワグルミに抱かれた沢を、この地を漂い続ける時間を愛せるのだろうか。南会津に情熱を注ぎ続けてきた先人たちの記録を読めば、彼らが如何様にしてこの地の山々を愛し続けてきたか、沢山のヒントが散りばめられている。そしてその答えは、きっとこれからの僕の山への向き合い方の中にある。

僕にはまだ、南会津フリークを名乗る資格は無いだろう。実が伴っていないからだ。来月、朝日から丸山、駒を通って燧まで南会津の主脈を歩こうと計画している。縦走を終えたら、ひとまず南会津フリークの一員になれるだろうか。

さあ、分からない。あの山も、この谷も歩きたい。きっといつまでも納得することはないのだろう。これからも僕はくだらない感情に苛まされる。だから山は面白い。

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